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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)28号 判決 1960年6月30日

控訴人 本橋公子

被控訴人 株式会社日本勧業銀行

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金五十万円及びこれに対する昭和二十八年十二月十五日以降支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「控訴棄却」の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、左記を附加する外、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

控訴代理人は、

(一)  本件小切手金の請求(第一次の請求)は、本件小切手の振出人である被控訴人に対し遡求権を行使するものである。本件小切手は被控訴銀行が自己宛に振出したものであるが、わが国においては、かような銀行振出の自己宛小切手にあつては、小切手法所定の遡及権保全手続を履践しないでも、所持人は振出人に対し遡求権を行うことができるとし、或は、少くともその保全手続をなすべき期間を法定の期間より相当長く延長する商慣習法が存在し、この慣習法は商法第一条により本件小切手に適用がある。この意味において、振出人の支払義務に関する限り、銀行振出の自己宛小切手は形式は小切手であつてもその実質は約束手形に変質したものというべく、かかる小切手の振出人は約束手形の振出人と同様絶対の支払責任を負うべきである。仮に右慣習法の存在が是認せられないとしても、少くとも同一内容の事実たる商慣習が存在し本件小切手当事者はこの慣習に従う意思があつたものと推認すべきである。そして、以上のことは、銀行振出の自己宛小切手について、その振出人たる銀行は、法定の呈示期間経過後に呈示がなされた場合であつても、常に異議なくその支払に応ずるのがわが国に小切手制度を導入以来数十年間に亘る慣行であつて、その間に遡求権不保全の理由により支払を拒絶した実例が一つもないことに徴し明らかである。又、自己宛小切手にあつては、振出人と支払人とが同一人格であるために前者が後者に対する支払委託を取消すということは呈示期間の前後を問わずあり得ないのであるから、この点からしても、振出人と支払人とが別人格である一般の小切手の場合と異り、その呈示期間を十日間に限定すべき理由はないのである。控訴人は昭和二十八年十二月十四日本件小切手の振出人兼支払人である被控訴銀行銀座支店に対し同小切手を呈示してその支払を求めたところ、同支店は盗難の届出があり且呈示期間経過後の呈示であるとの理由でこれが支払を拒絶したのである。右の呈示は本件小切手の変造前の振出日附から起算すれば法定の呈示期間経過後のものであるけれども、前記の慣習法又は事実たる慣習に従えば、被控訴人は本件小切手の所持人である控訴人に対しその遡求権の行使に応ずべき義務のあることは明らかである。本件小切手が振出後何者かに窃取せられたものであつても、控訴人は悪意又は重大な過失なくしてこれを取得した正当の所持人である。

(二)  右遡求権の行使が認容せられないときは、予備的請求として、原判決事実摘示の不法行為に基く損害賠償を主張する外、更に小切手法第七十二条に基く利得償還請求を主張する。右利得償還の請求原因は次の通りである。すなわち、被控訴銀行銀座支店は本件小切手を振出すにつき第三者からその振出資金として金五十万円を受領し同金額相当の利得をしているのであるから手続の欠缺により本件小切手上の権利を失つた控訴人に対し右利得を償還すべき義務がある。

と述べ、

被控訴代理人は、

(一)  控訴人主張の如き慣習法及び事実たる慣習の存在は否認する。

(二)  控訴人主張の利得償還請求は時機におくれて提出したものであるから、民事訴訟法第百三十九条第一項により却下の裁判を求める。なお被控訴人が本件小切手資金として金五十万円の利得をしたとの事実は否認する。

と述べ、

立証として、新たに、控訴代理人は甲第三号証の一、二、第四号証の一、二、第五号証、第六号証の一ないし三、第七号証、第八号証の一ないし三の各(1) (2) 、第九号証、第十号証の一ないし十三を提出し(但し第六号証の一ないし三は写である。)、当審における証人伊藤慶太郎、証人兼鑑定人佐藤良輔(第一、二回)及び同上原聰の各尋問を求め、被控訴代理人は甲第四号証の一、二、第五号証、第九号証、及び第十号証の十三中郵便官署の日附印の部分はいずれも成立を認める。甲第六号証の一ないし三の原本の存在及び成立を認める。甲第十号証の十三中のその余の部分竝びに当審で新たに提出されたその余の甲号各証の成立はすべて不知である。と述べた。

理由

第一、小切手金の請求(第一次の請求)について。

(一)  被控訴銀行銀座支店が振出日の点を除き控訴人主張の如き本件小切手一通を振出したこと、本件小切手の振出日は昭和二十八年十一月十四日であつて、振出当時本件小切手には振出日附として右の年月日が記載されていたのであるが、後日何者かにより右振出日附が同年十二月十四日と変造せられたこと、本件小切手が振出後何者かにより窃取せられたこと、控訴人は同年十二月十二日訴外西川静夫から振出日附変造後の本件小切手を取得し(但し控訴人が変造であることを知つていたかどうかの点は暫らく措く)その所持人となつたので、同月十四日控訴人の取引銀行である住友銀行人形町支店を通じて被控訴銀行銀座支店に呈示して支払を求めたところ、盗難小切手であり且呈示期間経過後の呈示であるとの理由で支払を拒絶せられたことは、いずれも当事者間に争いなく、この争いない事実と成立に争いのない乙第三号証、原審証人宮脇国雄、加藤一の各証言により成立を認めうる乙第一号証、第二号証の一、二、並びに原審における右両証人及び証人佐久間常夫、松村正一の各証言及び控訴本人尋問の結果を綜合すれば、本件小切手の振出後控訴人が同小切手を取得しこれを呈示するまでの経緯として次の事実を認めることができる。

被控訴銀行銀座支店は訴外石井俊彦の委託により昭和二十八年十一月十四日本件小切手を振出して同人に交付したところ、同人は同日都内新宿区所在の河田町会館において右小切手を窃取せられた。そこで同人は直ちにその旨を被控訴銀行銀座支店に電話で通知し、次いで同月十六日同支店に対し本件小切手が盗難にかかつたから支払のための呈示があつても支払を拒絶して欲しい旨を記載した事故届書を提出したので、被控訴銀行は同月十七日その旨を東京銀行協会を通じ同協会加盟の各銀行に通知した。一方控訴人は肩書地大野屋旅館の女中であつたところ、同年十二月九日から訴外西川静夫が同旅館の宿泊客となつた。控訴人は西川とは従前面識がなかつたが、同人が右旅館に滞在中たまたまその世話係りとなつた関係から相識るに至つた。控訴人は将来西川から経済的援助を受ける約束の下に同人との情交を承諾し右援助資金の一部とする趣旨で同月十二日西川から既に振出日が変造せられた本件小切手一通の交付を受けた。その際控訴人は小切手の振出日附が同月十四日となつて居り先日附小切手であることに気づいたのでそのわけを西川に尋ねたところ、同人の返答は「勧業銀行の支店長が目下名古屋に出張中であるから先日附にしておいた。今日は土曜日であるから来週月曜日に現金化できるようにしてある。」とのことであつた。西川は当時大阪の電機会社の社長と称して居り、その態度、身なり等から控訴人は西川の言を信じそれ以上同人に対し小切手の出所を確めることはしなかつた。控訴人は本件小切手を受領後即日これをかねて取引のあつた住友銀行人形町支店に持参し翌々日の同月十四日に呈示してほしい旨を依頼して同支店に預けておいた。ところが、同月十三日になつて西川が宿泊料不払のままそしてそれまでに控訴人から借りた合計金四万円も返済せずに行方をくらましたので、控訴人は漸く同人の言動に不審を抱くに至つたが、同日は日曜日であつたため翌十四日前記住友銀行人形町支店を通じ被控訴銀行銀座支店に本件小切手を呈示して支払を求めたところ前記の如き理由で支払を拒絶せられ、かくしてはじめて控訴人は本件小切手が盗難にかかつた小切手であること及び振出日附変造の事実を知るに至つたのである。

(二)、以上認定の事実関係からすれば、訴外西川静夫は本件小切手を窃取した犯人であるか、或いは、そうでないにしてもその窃盗犯人から情を知つてこれを取得した者であつて、いずれにしても本件小切手の正当所持人ではなかつたものと推認することができるのである。他にこの認定を動かすに足る資料はない。そうすれば、結局、控訴人は正当の所持人でない者、換言すれば無権利者から本件小切手を取得したことに帰するのである。小切手法第五十条によれば、小切手の文言の変造の場合において変造前の署名者は原文言に従い責任を負うべきであり、(この場合変造が何人によりなされたか、及び所持人が変造の事実を知つているかどうかは問うところでない。)被控訴人が本件小切手の振出日附変造前の署名店であることは前記認定により明らかであるから、被控訴人は変造前の振出日附、すなわち昭和二十八年十一月十四日という振出日附のある小切手の振出人として責任を負うべきものである。ところが、控訴人が西川から本件小切手を取得したのは前記の通り同年十二月十二日であつて、右変造前の振出日附から起算し法定の呈示期間-同法第二十九条第一項に定める十日の期間-を経過した後のことであることも明らかである。そして、小切手法第二十四条第一項によれば、呈示期間経過後の小切手の裏書を指名債権の譲渡の効力のみを有するのであつて、同条は裏書による譲渡の場合のみならず引渡による譲渡の場合にも適用される法意であると解すべきであるから、本件は結局呈示期間経過後に無権利者から小切手の譲渡を受けた場合に該当し、控訴人は被控訴人に対する関係において本件小切手上の権利を取得するいわれはないのである。小切手の善意取得に関する同法第二十一条は呈示期間経過後の譲渡の場合には適用がないと解すべきであるから、控訴人が西川の無権利者であることにつき悪意又は重大な過失がなかつたかどうかは、本件においては判断の要がない。

(三)、控訴人は、本件のように銀行振出の自己宛小切手については、所持人が法定の期間内に呈示その他の遡求権保全手続を履践しなくてもなお振出人に対し遡求権を行うことができるとし、或いは、少くともその呈示期間を法定の期間より相当長く延長する旨の商慣習法又は事実たる商慣習が存在するから、これに基き控訴人は被控訴人に対し本件小切手の遡求権を有すると主張するので、その当否について考察する。

原本の存在及び成立に争いのない甲第六号証の一ないし三、当審における証人兼鑑定人佐藤良輔の尋問の結果(第一回)により成立を認めうる甲第十号証の一ないし十二(但し同号証の十三中郵便官署の日附印の成立は当事者間に争いがない。)と、原審における証人佐久間常夫、松村正一、井上勝馬、加藤一、宮脇国雄の各証言、当審における証人兼鑑定人佐藤良輔(第一、二回)及び上原聰の各尋問の結果を綜合すれば、次の事実、すなわち、わが国における小切手取引の実際において、(イ)銀行が自己宛小切手を振出すのは通例当該銀行は預金を有する第三者の委託によるのであるが、この場合に、銀行は振出委託者の計算において小切手の支払をなしうること、換言すれば、銀行がその小切手の支払をした場合には委託者の預金をそれだけ減額する旨の資金契約が両者間に存すること、(ロ)銀行振出の自己宛小切手にあつては、支払のための呈示が法定の期間内になされず期間経過後になつてなされた場合であつても、正当所持人と認められ且振出委託者から委託の取消のない限り、銀行はその支払に応ずるのが慣例であること、従つて銀行振出の自己宛小切手について銀行が法定期間内の呈示でないという理由だけでその支払を拒絶した実例は存しないこと、(ハ)、しかしながら右(ロ)の場合と異り、振出委託者から盗難紛失等の届出があつて所持人が正当の権利者と認められない場合とか、振出委託者からその振出委託が取消され(盗難紛失等の届出のある場合は通例かかる取消の意思表示をも含むものと解せられる)且呈示期間経過後の呈示である場合には、銀行振出の自己宛小切手についても、銀行がその理由により支払を拒絶した実例は存することをそれぞれ認めることができる。他に認定を覆すに足る証拠はない。

控訴人が主張する慣習法又は事実たる慣習の内容が、銀行振出の自己宛小切手の振出人兼支払人たる銀行は、正当の所持人と認められるものの呈示であり且振出委託者から委託の取消のない限り、たといその呈示が法定期間経過後のものであつてもその支払に応ずる慣行があるという趣旨であれば、かかる慣行が小切手取引の実際において存することは前記の通りであるけれども、もし控訴人主張の慣習法等の内容が右の範囲に止らず、いやしくも銀行振出の自己宛小切手の所持人から呈示があるときは振出人兼支払人たる銀行は常にその支払に応ずる慣行があるという趣旨であれば、かかる慣行の存在は到底これを認め得ないことは前段の説明に徴し明らかである。控訴人は、銀行振出の自己宛小切手については、その呈示期間を法定の期間より更に相当期間延長する慣習法又は慣習が存するというが、小切手の呈示期間は小切手法第二十九条の明定するところであつて、法定の伸長理由(同法第四十七条)のない限り、この期間を延長する慣習法又は事実たる慣習の如きはこれを認め得ないものと解すべく、銀行振出の自己宛小切手なるが故にこの解釈を異にすべき理由はない。又自己宛小切手においては、振出人と支払人とが同一人格であるために両者間に支払委託という観念を容れる余地のないことは控訴人主張の通りであるけれども、そうだからといつて第三者と銀行間に前記の如き小切手振出についての委託関係が存することを否定すべき理由はなく、従つて又第三者が後日その銀行に対する振出委託を取消すことが法律上不可能であるとするのは当らないし、又かかる小切手の呈示期間を十日間に限定する理由がないとする控訴人の見解は首肯できない。

控訴人が本件小切手の正当所持人でないことは前記の通りであり、又本件小切手の振出委託者である石井俊彦は昭和二十八年十一月十六日前記事故届書を被控訴銀行銀座支店に提出することによりその委託を取消したものと認むべきであるから、その後同年十二月十四日控訴人のなした呈示に対し右支店が支払を拒絶したのは、法律上からいうも或いはまた前記認定の小切手取引の実際からいうもむしろ当然の措置であるというべく、かかる場合に被控訴人がなお控訴人に対し遡求義務を負うものとする慣習法ないし事実たる慣習の如きは到底これを認めることはできないのである。控訴人の前記主張は右の理由により採用できない。

(四)、そうすれば、被控訴人に対し本件小切手金の支払を求める控訴人の第一次の請求は理由がなく棄却するの外はない。

第二、よつて進んで控訴人の予備的請求について判断する。

(一)、不法行為に基く損害賠償(慰藉料)請求について。

(1)  被控訴人は本件小切手金請求と損害賠償請求とはその基礎を異にするから両者を併合して請求することは許されないと抗弁するけれども、本件訴状によれば右二箇の請求は訴提起の当初から一の訴に併合して請求せられていることは明らかであつて、訴提起後に請求原因を変更する場合ではないから、その基礎の同一性を論ずるまでもなく民事訴訟法第二百二十七条により右請求の併合は許されるべきである。被控訴人のこの点の抗弁は理由がない。

(2)  控訴人の右損害賠償請求については、当裁判所もまたこれを理由ないものと認めるのであつて、その理由は、左記を附加する外、原判決理由の記載(原判決九枚目裏三行目から十二枚目表四行目まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。

(イ) 当審証人伊藤慶太郎の証言によれば、伊藤慶太郎が昭和三十一年四月中、日本銀行本店営業局係員に対し小切手に年月日を記載する場合に用うる数字につき問合せた結果、日本銀行振出の小切手については十一月を表示するのに「十一」という数字ではなく「拾壱」という数字を使用するよう指導し且慣行しているし、日本銀行受入の小切手についても「十一」という数字を使用しているものがあるときは爾後「拾壱」という数字を使用するよう注意を与えている旨の回答があつたことが認められ、又(ロ)、原本の存在及び成立に争いのない甲第六号証の一ないし三によれば、昭和三十二年十一月当時被控訴銀行本店、住友銀行有楽町支店、三菱銀行日比谷支店においてはその振出にかかる小切手の振出日附を表示するにあたり「十一」という数字ではなく「拾壱」という数字を使用していることを認めることができる。そして小切手の振出日附の記載には一般に「一、二、三、十」のような数字を用うることなく「壱、弐、参、拾」のような数字を用いる方が変造防止の観点から望ましいことであるには相違ないけれども、そのことと、小切手取引を業務とする銀行が小切手上に日附を記載するにあたつては常に「壱、弐、参、拾」という数字を用うべき業務上の注意業務があるかどうかの問題とは自ら別であつて、さきに引用の原判決理由に記載の通り、本件小切手の振出当時被控訴銀行銀座支店の外東京都内の三井銀行、三菱銀行第一銀行、富士銀行、東京銀行、三和銀行等一流銀行の各支店においても振出日附欄に「拾壱月」ではなく「十一月」というゴム印を押した小切手を振出している事実に徴するときは、同判決理由において認定している終戦前には「十一」ではなく「拾壱」というゴム印が一般に使用されていた事実及び昭和二十八年当時住友銀行においては小切手に「十一」というゴム印を使用せず専ら「拾壱」というゴム印を使用していた事実に、当審で新たに認定した前記(イ)(ロ)の事実を附加して考えても、なお、本件小切手の振出当時、被控訴銀行の当該係員に「十一」のような数字でなく「拾壱」という数字を使用して「昭和廿八年拾壱月拾四日」というように振出日附を表示すべき業務上の注意義務があつたものと認めるのは相当でない。控訴人が当審で新たに提出援用したその他の証拠によつても右係員に控訴人主張の如き義務があつたことを認めるに足る資料はない。

(二)  利得償還請求について。

(1)  被控訴人は、右利得償還請求は時機に後れて提出されたものであるから民事訴訟法第百三十九条第一項により却下を求めるというけれども、右請求のために特に本件訴訟の完結が遅延するものとは認められないから、右請求に対し却下の裁判はしない。

(2)  小切手法第七十二条に定める利得償還請求権は小切手の正当所持人が手続の欠缺又は時効により小切手上の権利を失つた場合に認められる権利であつて、その償還請求の権判者は小切手上の権利が消滅した当時における当該小切手の正当所持人であることを要するものと解すべきところ、控訴人は、前記の通り、被控訴人に対する関係において本件小切手の正当な所持人ではないのであるから、被控訴人の利得の有無を論ずるまでもなく、既にこの点において利得償還請求権を有しないものというべきである。従つて控訴人の右利得償還請求もまた失当というの外はない。

第三、以上の理由により控訴人の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべく、これと同旨の原判決は相当であるから本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条第八十九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 奥田嘉治 岸上康夫 下関忠義)

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